iPhone のボイスメモや IC レコーダーで録音したファイルは、拡張子が「.m4a」になっています。この形式は文字起こしのサービスによっては受け付けてもらえず、「先に MP3 へ変換してください」と案内されることがあります。ただ、変換が要るかどうかは使うツール側の都合であって、m4a そのものが扱いにくい形式というわけではありません。
この記事では、m4a ファイルを形式変換せずにそのまま文字起こしする手順を、録音を PC へ移すところから話者ごとの書き分け、字幕ファイルの書き出しまで通して説明します。会員登録もアプリのインストールも必要なく、ブラウザだけで最後まで進められます。
必要なものと、必要でないものを先に挙げておきます。
- 必要なもの — PC と、Chrome または Edge のブラウザ、そして「.m4a」の録音ファイル
- 必要でないもの — 会員登録、アプリのインストール、ファイルのアップロード、形式の変換
m4aのまま文字起こしできます
「m4a」は音声を AAC という方式で圧縮したときの入れ物にあたる形式で、iPhone のボイスメモ、Android の録音アプリの一部、そして多くの IC レコーダーが標準の保存形式として採用しています。音声データとしては MP3 と同じように扱えますから、対応しているツールさえ選べば変換の手間は要りません。
変換を求められるのは、そのサービスが内部で使っているライブラリが m4a を読めない場合です。私が作っている「Transcriber」はブラウザの中で ffmpeg を動かしているので、m4a でも MP4 でも、読み込んだ時点で音声を取り出します。
文字起こしの手段はいくつかあり、どれを選ぶかで扱えるファイルの大きさも、録音がどこへ送られるかも変わってきますので、先に違いを整理しておきます。
方法 | 形式の変換 | 時間の制限 | 話者の分離 | 音声の送信先 |
|---|---|---|---|---|
iPhone の標準機能 | 不要 | なし | できない | 端末の中だけ |
クラウド型のサービス | サービスによる | 無料枠に上限 | 有料プランが多い | 事業者のサーバー |
ブラウザの中で処理する | 不要 | なし | できる | 送信しない |
PC にソフトを入れる | 不要 | なし | 設定できる | 送信しない |
iPhone を使っていて、録音した端末の中で読めれば十分という場合は、標準機能を使うのが一番早く済みます。Apple は iOS 18.4 で Apple Intelligence を日本語に対応させましたので、対応する機種であればボイスメモの録音をそのまま文字にできます。
ただ、標準機能では「誰が話したか」を行ごとに分けることができず、字幕ファイルとしての書き出しにも対応していないため、複数人が参加した会議やインタビューの録音を扱うのであれば、PC 側で処理したほうが後の作業はずっと楽になります。
用意するもの
- PC。Windows・macOS・Linux のいずれでも動きます
- Chrome または Edge の最新版。Safari と Firefox でも動きますが、後述する理由で速度が落ちます
- 「.m4a」の録音ファイル。1 ファイルあたり 2 GB まで読み込めます
手順1:録音をPCに移す
録音した端末から PC へファイルを移します。手順は使っている端末によって変わりますので、自分の環境に当てはまるものを選んでください。
- iPhone の場合は「ボイスメモ」で録音を長押しし、共有メニューから AirDrop か「ファイルに保存」を選びます。Mac なら AirDrop が早く、Windows なら iCloud Drive か USB 接続で取り出します。
- Android の場合は、録音アプリの共有メニューから Google ドライブへ上げるか、USB 接続で録音フォルダを直接開きます。
- IC レコーダーの場合は、USB で PC につなぐと外部ストレージとして見えるので、そのままコピーします。
手順2:ブラウザで文字起こしする
ファイルを PC に移したら、ブラウザで文字起こしのツールを開きます。ここでは自分で作った「Transcriber」を使いますが、m4a をそのまま読み込めるツールであれば手順の考え方は同じです。

音声・動画ファイルをブラウザだけで文字起こし。会員登録もアップロードも不要で、音声データは端末の外に出ません。時間・回数の制限なしで完全無料。Whisper AI による話者分離と SRT 字幕の書き出しに対応し、MP3・WAV・M4A・MP4 など主要形式を読み込めます。
- 「Transcriber」をブラウザで開きます。
- 「モデル」「言語」「話者分離」を先に設定します。
- 「音声・動画ファイルをドロップ、またはクリックして選択」の枠に m4a ファイルを読み込ませます。
- 読み込んだ時点で処理が始まります。完了するまで待ちます。
モデルの選び方
モデルは 6 種類から選べます。大きいものほど文字起こしの精度は上がりますが、そのぶん処理にかかる時間と使用するメモリも増えていきます。
以前、4 分 08 秒の動画(51.9 MB)を使って測ったときの結果を載せます。GPU は RTX 2060 SUPER(8 GB)を積んだ PC で、ブラウザは Chrome、WebGPU が有効になっている状態で計測しました。
モデル | 処理時間 | 実時間に対する倍率 |
|---|---|---|
Small | 0 分 35 秒 | 約 7.1 倍速 |
Medium | 1 分 22 秒 | 約 3.0 倍速 |
Large v3 Turbo | 0 分 37 秒 | 約 6.7 倍速 |
Large v3 | 0 分 52 秒 | 約 4.8 倍速 |
「大きいモデルほど遅い」と思われがちですが、この結果を見るかぎりそうはなっておらず、最も時間がかかったのは中間サイズの Medium でした。Large v3 Turbo が Small とほとんど変わらない速さで終わるのは、音声を解析する部分が Large v3 と同じ大きさのまま、テキストを組み立てる部分だけを小さくした構成になっているからです。
私は「Large v3 Turbo」を使っています。日本語の固有名詞や専門用語をどこまで正しく拾えるかが Small とは明らかに違いますし、それでいて処理にかかる時間はほぼ同じですから、選ばない理由が見当たりません。
手順3:話者を分けて書き出す
複数人の会話を録音した場合は、文字起こしを始める前に「話者分離」を「有効」にしておきます。そうすると、書き出したテキストが行ごとに誰の発言なのかで分かれます。
参加した人数があらかじめ分かっているなら「話者数(0 = 自動)」で指定してください。自動判定のままでも動きますが、人数を教えたほうが割り当ての精度は上がります。
この機能は「pyannote.audio」という話者分離の実装をブラウザ向けに移植したもので、10 秒ごとに区切った音声から話者の特徴を取り出して同じ人物の発言をまとめています。ただし 1 秒前後の短い相づちや呼びかけは拾いきれないことがありますので、そこは書き出したあとに画面上で直すことになります。
テキストと字幕の使い分け
書き出せる形式は「TXT」と「SRT(字幕)」の 2 つで、そのあと何に使うかによって選び分けます。
- 議事録や記事の下書きに使うなら TXT
- 動画に字幕を付けるなら SRT
うまくいかないときの対処
処理が途中で止まってしまう場合、私のところに届いている失敗の記録を見るかぎり、その原因はほとんどがメモリ不足です。
- スマートフォンでは途中で止まりやすい。読み込めるファイルサイズも 500 MB までに制限されています
- WebGPU が使えない環境(Safari や Firefox)では CPU で処理するため、大幅に遅くなります
- 1 時間を超えるような長い録音は、まず小さいモデルで通してから、精度が足りなければ上げていきます
「この環境は GPU(WebGPU) 非対応のため、このモデルは非常に低速になります」という警告が出た場合は、Chrome か Edge で開き直すか、それが難しければ小さいモデルを選んでください。
よくある質問
本当に無料ですか。時間や回数の制限はありますか。
無料です。時間の制限も回数の制限もなく、何時間の録音を何度読み込ませても料金は発生しません。文字起こしの処理が利用者の PC の中で動くため、こちら側にサーバーの費用がかからないからです。
m4a を MP3 に変換してから読み込ませたほうが、精度は上がりますか。
上がりません。変換の過程で一度展開してから再び圧縮し直すことになりますので、音質はむしろ落ちます。m4a のまま読み込ませてください。
録音の内容がサーバーに送られることはありませんか。
ありません。文字起こしはブラウザの中だけで動きますので、音声ファイルが端末の外へ出ることはありません。通信が発生するのは、最初に AI モデルを取得するときだけです。
会員登録やログインは必要ですか。
必要ありません。メールアドレスの入力も求めていませんので、開いたその場で使い始められます。
iPhone や Android だけで完結できますか。
できますが、勧めません。スマートフォンは使えるメモリが少なく、長い録音を読み込ませると処理の途中で止まってしまうことが多いためです。録音はスマートフォンで行い、文字起こしは PC で行う形が確実です。
何時間の録音まで扱えますか。
ファイルサイズが 2 GB を超えなければ、長さそのものに制限はありません。ただし長い録音ほど処理に時間がかかりますので、終わるまでタブを閉じずに待つ必要があります。
まとめ
m4a は変換せずにそのまま文字起こしできます。「先に MP3 へ変換してください」と案内されるのは、そのサービスが m4a を読めないというだけの理由であって、音声の形式そのものに問題があるわけではありません。
- 録音を PC に移す
- モデルと言語、話者分離を先に設定する
- ファイルを読み込ませる(読み込んだ時点で処理が始まります)
- TXT か SRT で書き出す
関連記事とツール
X(旧Twitter)スペースの録音アーカイブを、無料でテキストに文字起こしする手順を解説します。録音のダウンロードから話者ごとの書き分け、字幕ファイルの書き出しまで、会員登録もアプリのインストールもなしにブラウザだけで完結します。
動画に字幕を入れるのに、ソフトのインストールもファイルのアップロードも要りません。ブラウザーだけで文字起こしから SRT の作成、字幕の焼き込み(ハードサブ)まで済ませる手順を、無料・アカウント登録不要で説明します。

音声ファイルを MP3・WAV・M4A・AAC・OGG・OPUS・FLAC・AIFF に変換する無料ツール。MP4 や MOV などの動画から音声だけを取り出すことも可能。ブラウザ内で処理、送信不要、時間制限なし。